無能世界

調べ物の結果を公開することにしました。

最多選首長一覧(市長,町長,村長,特別区長)

概要

国会議員や地方議員を何期も務めることは珍しくない。しかし,地方公共団体の首長は,その地域で1名のみであるため,数十年にわたって選挙に勝ち続けることは難しいと思われる。更に,長きにわたって首長を務めるには若くして当選する必要があるが,政治経験の少ない者が当選することは簡単ではない。従って,多選の首長は少ないと考えられる。そこで本稿では,市町村ならびに特別区における最多選首長を調べた。

はじめに

現在衆議院議員を10期以上務めているのは,当選17回の小沢一郎を筆頭に11名いる。地方議会においても,横浜市会では4名が10期以上務めており,名古屋市会では2名,八尾市議会では2名,笠岡市議会でも2名,土浦市議会でも2名等々,一般的に議会において10回当選は珍しくなく,7回8回であれば普通であると言えよう。小沢一郎の初出馬は27歳の時であり,横浜市会の花上喜代志は32歳で初当選を果たしているなど,当選回数を重ねるためには初当選が若くなければならない。

地方公共団体の首長は,1名のみの選出である上,多くの場合,保守系と革新系に分かれた事実上の一騎打ちとなるため,勝ち続けることは容易ではない。さらに,そもそも,いくら法律上25歳から立候補が可能であるとは言え,議会と異なり先輩議員から教えを請うということができない首長を政治経験がほとんどない人間が務めるのは難しいと考えられ,人選段階で弾かれてしまい政党による応援が受けられず,やはり当選は難しいだろう。40歳過ぎてから当選した場合,首長を10期も務めると80歳を超えてしまう。

従って,多選の首長は少ないと考えられる。そこで本稿では,現在および歴代の市町村長ならびに東京都特別区長で,当選回数の多い者を調査した。当選回数が多くなるためには,対立候補が長期にわたって立たないことと,若くして立候補するか,年甲斐もなく首長のイスにしがみつくことの2点が肝要である。実際の多選首長は,この2条件を満たしている者が多かった。

調査方法

市長

現職の市長は,全国市長会が選挙毎の当選者と当選回数を発表しているため*1,過去4年分のデータを当たった。過去の市長は,勘を用いた。

町村長

新聞記事を参考にした。

特別区

特別区は23しかないため,現職の区長の当選回数を全て調べた。特別区は,1943年に東京市東京府に吸収され東京都に改組された後,1952年の地方自治法改正で区長が公選ではなくなってしまった。そして1975年に区長公選制が復活した。従って,1975年以降の区長のみ調べれば十分である。

最多選市区町村長一覧

現職

市長は,柏木征夫・御坊市長が7期で最長である。

町長は,辻一幸・早川町長が10期で最長である。

村長は,藤本昭夫・姫島村長が9期で最長である。

特別区長は,矢田美英・中央区長が8期で最長である。

歴代

市長は,吉道勇・貝塚市長が10期で最長である。

町長は,辻一幸・早川町長が10期で最長である(現職)。

村長は,岡村雅夫・芸西村長が13期で最長である。

特別区長は,矢田美英・中央区長が8期で最長である。
なお,中里喜一江戸川区長は9期区長を務めたが,公選制となるよりも前,1964年から9期であり,公選制になってからは6回当選である。

考察

多選のための条件

御坊市長は,直近の選挙では分裂選挙となったが*2,それまでは4回の無投票当選を経ている*3。51歳での初当選であり,現在は77歳。

早川町長は,無投票当選が8回続いている*4。初当選は36歳。

姫島村長は,親子2代にわたって首長を務めており,60年近く無投票であった*5。初当選は41歳である。

中央区長は,東京都心3区の区長であり対立候補が立たないことはなかったが,選挙に圧勝しており*6,事実上対立候補がいない構図であったと言って良いだろう。尤も,直近の選挙では自民党から推薦を外され対立候補を送り込まれたが,それでも圧勝しており,御坊市長同様,長期にわたる実績のためにもはや政党の支援が必要ない状況にある。初当選は47歳。

この4首長に共通するのは,有力な対立候補がほぼいない状況であることと,70歳を過ぎても気にせず首長をやり続けていることである。また,多選首長であっても,20代30代という若い年齢から当選を重ねているということはあまりない。

過去の首長については選挙結果を調べることが困難であったため年齢のみ挙げると,貝塚市長は43歳,芸西村長は35歳でそれぞれ初当選している。

地方公共団体の特徴

市町村をまとめた場合,伊藤孝二郎・黒川村長(12期),林田敦・西郷村(さいごうそん)長(10期),黒澤丈夫上野村長(10期),高田幸篤・野迫川村長(10期)と,村長が上位にランクインする一方で,10期の市長は貝塚市長のみであり,次点以降は井伊直愛・彦根市長(9期),原昇・岸和田市長(8期)となっている。

市長の方が村長よりも続けにくいということである。榛村純一・掛川市長は8期目を狙うも落選,金刺不二太郎・川崎市長もまた,8期目を落選によって実現できなかった。長期にわたって対立候補が出てこないことが多選の鍵であると言える。

ここで,対立候補が出せるかどうかが問題となる。東京都心の中央区では,直近数回の選挙では立候補者数が2名のこともあれば5名のこともあったが,1名のみということはなかった。地方公共団体の首長は,その土地にゆかりのある人物で,知名度のある人物を擁立することが多い。従って,単に人口が多いだけで候補となりうる人物が増えるため,対立候補を立てやすくなると考えられる。逆に,村内全員が顔見知りであるような,数百世帯の自治体では,2人目を擁立することがかなわない可能性が高い。更に,こうした自治体では,国政政党が入り込むメリットがないため,保守対革新という構図も生まれにくいと言えよう。

町村における多選の今後

多選の首長となるためには,長期にわたる無投票当選が重要である。人口が少ない町村においてその傾向が強まるが,近年の合併により,町村の数が減っている。西郷村や黒川村はもう存在しない。従って,10選以上の首長は今後減っていくと考えられる。

結論

本稿では,最も在任期間の長い,現職および歴代の市長,町長,村長,特別区長を調査し,その理由を考察した。多選首長となるためには,無投票当選を重ねるか,有力な対立候補が立たないことが重要であった。初当選の年齢は40歳以降であることが多く,70歳を過ぎてもなお首長であり続ける事例が多かった。