学振特別研究員の採用に関する記録
概要
日本学術振興会特別研究員事業は,博士課程の大学院生ならびに学位取得後数年以内の研究者(ポスドク)の登竜門的存在として認知されている。特にDCについては,待遇と採用人数において最も存在感を示している事業である。他方で,その採用率は2割以下となっており,選抜されるために申請書に多大な労力を費やすことも少なくない。その過程で情報収集を行うことがあるが,日本学術振興会が公開している情報は直近数年のものであり,過去のものは順次消されていくため,傾向を掴むのが難しい。そこで本稿は,いくつかの数値について複数の年度に渡って記録し,情報収集による時間の浪費を削減する。
はじめに
(略)
以下の2点について記録しておく。
- 予算の増減について
- 結果発表の日取りについて(面接含む)
予算の増減
特別研究員事業は,科学研究費補助金(科研費)とは異なる予算項目である。特別研究員奨励費は,科学研究費補助金であるから,特別研究員事業の予算とは関係ない。従って,特別研究員事業予算が減額され,科研費が増額されるというのが昨今の傾向である。
予算は,8月に文部科学省が概算要求を出し,その後財務省で減額されて予算案となる。そして,この予算案は年末に閣議決定され,政争が起こらない限り3月までにそのまま衆議院で可決される。従って,概算要求の推移と,予算案の推移を見ることで,文部科学省が特別研究員事業をどうしたいと考えているか,財務省がどうしたいと考えているかが読み取れるのである。
予算総額
年度 | 概算要求 | 予算案 |
2020 | 18,931 | 15,635 |
2019 | 17,248 | 15,627 |
2018 | 18,754 | 15,857 |
2017 | 19,470 | 16,082 |
※単位は百万円
文部科学省は毎年大幅な増額を計上するも,財務省は増額どころか減額の回答をしている。ただし,2020年度は微増となった。2019年度まで要求も弱気になっていたが,2020年度では要求額が大きくなった。2018年12月に科研費が首相の一声で大幅に増額されたことに象徴されるように,科学技術への投資を勧める声が高まる[要出典]なか,増額に踏み切れると判断したのだろうか。
採用人数
年度 | 概算要求(DC) | 予算案(DC) | 概算要求(PD) | 予算案(PD) |
2020 | 5,067 | 4,196 | 1,171 | 1,000 |
2019 | 4,293 | 4,196 | 1,167 | 1,000 |
2018 | 4,669 | 4,293 | 1,330 | 1,000 |
2017 | 4,386 | 1,000 |
※単位は人
予算額の増減は採用人数と当然連動する。特にDCはここ数年応募者が増える中,人数は減りっぱなしであるから,採用率も毎年緩やかに減少している。
研究奨励金
年度 | 概算要求(DC) | 概算要求(PD) |
2020 | 2,448,000 | 4,431,000 |
2019 | 2,508,000 | 4,488,000 |
2018 | 2,484,000 | 4,452,000 |
※単位は円;予算案の金額は書くまでもないので不掲載とした
待遇という点において唯一の指標である研究奨励金であるが,ここ3年文部科学省は増額を要求している。特に2020年度は増税を理由としたものの,財務省に一蹴されている。
採用不採用の発表日
学振特別研究員の選考は,第一次選考と第二次選考に分かれている。大半が第一次選考で決定し,ごく一部が第二次選考(面接)に回される。これは,予算措置によると言われている。大方予算内に収まるであろう人数は第一次選考で内定し,金額の変動がありうる部分については第二次選考に回し,予算案が閣議決定されてから内定するというものである。実際,2012年12月の選挙で民主党政権から自民党政権に戻ったときは,第二次選考の結果発表が大幅に遅れた。ここから,次のようなことが予想できる。予算が安定して見込めるときは,かなりの割合が第一次選考で内定し,面接候補者は少ない。予算が不安定(増額されるかもしれない)というときは,多めに面接に回す。
これを検証するためには,面接に回された人数のデータが必要だが,学振は公開していない。よって,各応募者の日記等にたよるしかないのである。
応募年 | 第一次選考 | 第二次選考 | 予算案閣議決定 |
2019年 | 9月30日(月) | 12月26日(木) | 12月20日(金) |
2018年 | 10月12日(金) | 1月10日(木) | 12月21日(金) |
2017年 | 10月16日(月) | 12月26日(火) | 12月22日(金) |
2016年 | 10月14日(金) | 12月26日(月) | 12月22日(木) |
2015年 | 10月16日(金) | 12月25日(金) | 12月24日(木) |
2014年 | 10月16日(木) | 1月16日(金) | 1月14日(水) |
2013年 | 10月17日(木) | 12月27日(金) | 12月24日(火) |
2012年 | 10月18日(木) | 1月29日(火) | 1月29日(火) |
2011年 | 10月28日(金) | 12月28日(水) | 12月24日(土) |
2010年 | 10月29日(金) | 12月28日(火) | 12月24日(金) |
2009年 | 10月28日(水) | 12月28日(月) | 12月25日(金) |
第一次選考は,どんどん早くなっており,開示日の予想は難しい。ここ数年は,週末か週の始めであると言われている[誰に?]。第二次選考は,閣議決定から2営業日以内に発表されることが殆どである。2012年が遅いのは先述の通りである。2018年が遅いのは,年末に突然研究費を50億円増額する補正予算が組まれたため,学振が忙しくなってしまったものと思われる(先述の通り,科研費をいくら増やしても特別研究員事業には関係がない)。