【2020年最新】学振DCの研究費の分布の推移
概要
日本学術振興会特別研究員事業は,研究員に研究奨励金を支給するほか,科学研究費補助金として特別研究員奨励費を措置している。この金額は,DCにあっては,人文・社会系では年額60万円,自然科学系では年額100万円となっている。しかしながら,実際の支給額は大きく振れ幅がある。また,年度によってもその分布は異なっている。本稿では,年度毎の支給額の分布を示す。
はじめに
日本学術振興会特別研究員(DC)に支給される科学研究費補助金たる特別研究員奨励費は,研究員内定後に応募することでその支給が決定される。この際に,計画に基づいて応募総額を記入する必要があり,その後の審査で最終的な金額が決定されるが,これが応募総額を上回ることはない。この金額には上限があり,実験系の場合は年額100万円以下,非実験系の場合は年額60万円以下となっている。これとは別に,特別枠として年額150万円以下の予算枠も用意されている。実験系・非実験系の区別は,画一的に行うため,実質には立ち入らず,人文・社会系を非実験系,自然科学系を実験系と定めている。しかし,特別枠に実験・非実験の区別はないから,実質的にはどの分野であれ150万円以下という上限が1つだけあることになる。
研究費を余らせることについては何ら問題がない上に,翌年度への繰越制度もある。しかし不足した場合に増額はできない。従って,満額を申請するのが普通であると考えられる。他方で,研究計画を立てる際に,年額60万円しかもらえる見込みがないところ,150万円もらえるつもりで計画を立て,4月になってみたら60万円であったとなると大きな支障が出かねない。従って,ある程度の金額の見込み,つまり申請額と現実の乖離を見積もっておく必要がある。
本稿では,2015年以降の学振DCの研究費を掲載する。ここから,支給額にはいくつかのボリュームゾーンがあることを示す。また,2019年度以降の政策の変化によって,金額の分布が大きく変わり,特に特別枠については全体の約半数が認められていることを示す。
手法
国立情報学研究所の「KAKEN:科学研究費助成事業データベース」から,特別研究員奨励費のXMLデータをダウンロードし,自前のperlスクリプトで金額の情報を抽出する。
結果
DC1の研究費の分布を表1に,DC2のそれを表2に示す。
表1 DC1の研究費
DC1 | ||||||
2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | |
100,000 | ||||||
200,000 | ||||||
300,000 | 4 | 1 | ||||
400,000 | 1 | |||||
500,000 | 1 | |||||
600,000 | 1 | |||||
700,000 | ||||||
800,000 | 1 | |||||
900,000 | 3 | 2 | 2 | |||
1,000,000 | 7 | 1 | ||||
1,100,000 | 2 | |||||
1,200,000 | 3 | 1 | 2 | 4 | 1 | |
1,300,000 | 29 | 28 | 31 | 28 | 24 | 22 |
1,400,000 | 4 | 1 | ||||
1,500,000 | 1 | 4 | 1 | 2 | 1 | |
1,600,000 | 7 | 7 | 6 | 4 | 7 | 3 |
1,700,000 | 15 | |||||
1,800,000 | 1 | 1 | 1 | |||
1,900,000 | 23 | 221 | 1 | 1 | ||
2,000,000 | 1 | 1 | 1 | |||
2,100,000 | 1 | 2 | 2 | 1 | ||
2,200,000 | 1 | 235 | 1 | 1 | ||
2,300,000 | 10 | 2 | 1 | 2 | ||
2,400,000 | 8 | 2 | 2 | 1 | 5 | |
2,500,000 | 209 | 82 | 235 | 45 | 195 | 196 |
2,600,000 | 1 | 2 | 2 | 1 | 3 | |
2,700,000 | 4 | 1 | 5 | 4 | 4 | 4 |
2,800,000 | 313 | 256 | 328 | 301 | 52 | 59 |
2,900,000 | 1 | 1 | 3 | 2 | ||
3,000,000 | 1 | 1 | 1 | 7 | 5 | |
3,100,000 | 1 | 77 | 68 | 287 | 312 | |
3,200,000 | 4 | 1 | 2 | |||
3,300,000 | 3 | 3 | 2 | |||
3,400,000 | 102 | 114 | 105 | 100 | ||
3,500,000 | ||||||
3,600,000 | ||||||
3,700,000 | ||||||
3,800,000 | ||||||
3,900,000 | ||||||
4,000,000 | ||||||
4,100,000 | ||||||
4,200,000 | ||||||
4,300,000 | ||||||
4,400,000 | ||||||
4,500,000 | ||||||
特別枠率 | 14.6% | 15.7% | 11.1% | 9.7% | 56.9% | 57.7% |
表2 DC2の研究費
DC2 | ||||||
2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | |
100,000 | ||||||
200,000 | 5 | 4 | 1 | |||
300,000 | 1 | |||||
400,000 | 1 | 1 | ||||
500,000 | 5 | 1 | 1 | |||
600,000 | 3 | 1 | 1 | 1 | ||
700,000 | 1 | 2 | 1 | |||
800,000 | 4 | 4 | 2 | 2 | ||
900,000 | 66 | 66 | 55 | 58 | 60 | 49 |
1,000,000 | 7 | 6 | 2 | 2 | 2 | 6 |
1,100,000 | 15 | 27 | 15 | 5 | 25 | 14 |
1,200,000 | 5 | 2 | 3 | 3 | 1 | 5 |
1,300,000 | 410 | 5 | 2 | |||
1,400,000 | 4 | 5 | 3 | 4 | 1 | |
1,500,000 | 3 | 4 | 417 | 2 | 1 | |
1,600,000 | 2 | 4 | 12 | 2 | 1 | 8 |
1,700,000 | 386 | 149 | 388 | 80 | 358 | 360 |
1,800,000 | 10 | 4 | 6 | 2 | 16 | 9 |
1,900,000 | 474 | 318 | 478 | 410 | 100 | 118 |
2,000,000 | 1 | 2 | 6 | 8 | ||
2,100,000 | 1 | 106 | 105 | 394 | 387 | |
2,200,000 | 4 | 5 | 2 | |||
2,300,000 | 148 | 143 | 127 | 124 | ||
2,400,000 | ||||||
2,500,000 | ||||||
2,600,000 | ||||||
2,700,000 | ||||||
2,800,000 | ||||||
2,900,000 | ||||||
3,000,000 | 1 | |||||
特別枠率 | 13.3% | 12.9% | 9.9% | 9.6% | 47.7% | 46.6% |
考察
研究費が集中している金額は,年度によって異なることが分かる。DC1については,2015年・2016年は340万円が最大であったが,2017年・2018年は310万円に減額されている。2019年・2020年は,再び340万円に増額されている。また,最頻の金額も,2018年までは280万円であったのに対し,2019年以降は310万円となっている。
DC2でも同様の傾向が見られる。最頻の金額についても,2019年からは,それまでの190万円から,210万円に増額されている。
特別枠の金額は,DC1では300万円,DC2では200万円以上ということになるが,2019年以降では最頻値が特別枠内である。全体に占める特別枠の割合は,DC1では56~58%,DC2では46~48%と,2019年以降,約半数で推移している。
特別枠が認められなかった,あるいはそもそも申請していない場合,非実験系では,DC1では130万円,DC2では90万円に集中している。実験系では,DC1では250万円または280万円,DC2では170万円または190万円に集中している。それ以外の金額については,数が少ないことから,審査の結果,より多い金額が認められたものの,申請額がそれより少なかったためにその額に決定したものと考えられる。
2019年から総じて増額に転じたのは,2018年末に急遽100億円の補正予算が組まれた影響であると考えられる。これが2020年においても継続されているが,昨今の博士課程を含む若手研究者への支援に関心が集まった結果と思われる。
特別枠は,2018年までは1割程度しか認められていなかったため,端から申請をしないという選択も現実的であった。しかし現在では,約半数が特別枠を認められるため,それを前提とした研究計画を立てることも妥当である。
なお,極めて低額の研究費は,データの取得エラーではなく,実際にその額が支給されている。例えば,2020年のDC2では,2年間の総額が30万円の研究が1件ある。